相手方が郵便物を受領しない場合の意思表示の方法

法律事務所では一般的に用いられる手法ですが、企業の法務部の方でご存知でない方も多いように思われますので、「相手方が郵便物を受領しない場合の意思表示の方法」をご紹介します。

 

 

意思表示の到達の原則論

 

隔地者に対する意思表示の効力は、意思表示が相手方に到達した時に発生します(民法97条1項)。もっとも、必ずしも相手方が通知書を手にとって読まなければならないという趣旨ではなく、通知書が郵便受けに入れられた場合や本人以外の書面の受領権限のある者が受け取った場合など、意思表示が受領権限ある者の「勢力範囲(支配圏)内におかれること」をもって足りると理解されています(最高裁判例昭和36年4月20日民集15-4-774)。

 

受取拒否の場合の判例の考え方

 

しかし、相手方が通知書を受取拒否する場合があります。郵便物の配達後に宛名欄に「受取拒否」と明示して押印して郵便局に持参するかポストに投函すると、差出人にその旨が記載されて返送されてしまいます。

このような方法で相手方が解除通知書を受け取り拒否した場合であっても、勢力範囲(支配圏)内におかれていますので、意思表示が到達したものとされています(東京地裁判決平成10年12月25日金融法務事情1560-41、東京地裁判決平成5年5月21日判例タイムズ859-195、大阪高裁判決昭和53年11月7日判例タイムズ375-90、大審院判決昭和11年2月14日民集15-158)。

 

不在の場合の判例の考え方

 

郵便物のうち手渡ししなければならない内容証明郵便や簡易書留の場合、相手方が不在だと不在票が郵便受けに投函されて郵便局に持ち帰りとなり、留置期間7日間以内に配達できない場合には差出人に返送されてしまいます。

相手方が不在であった場合でも、不在配達通知書の記載その他の事情から郵便物の内容が推知でき、受取人に受領の意思があれば、郵便物の受取方法を指定することによって、さしたる労力、困難を伴うことなく右内容証明郵便を受領することができた場合には、遅くとも留置期間が満了した時点で到達したものとされています(最高裁判例平成10年6月11日民集52-4-1034)。

 

対策方法

 

以上をふまえ、郵便物を受領しない可能性がある場合には、通知書を相手方住所地宛てに内容証明郵便で発送するとともに、同時に、同じ内容を記載した特定記録郵便を別便で発送することで、より確実に意思表示を到達させることが可能です。

内容証明郵便だけの場合、居留守により不在の扱いになってしまいます。特定記録郵便ですと、手渡しではなく郵便ポストに投函されるため不在でも配達されますし、ホームページ上から追跡サービスを利用して投函されたことを確認し印刷して証拠化することが可能ですので、仮に内容証明郵便が不在により返送された場合でも、「不在配達通知書の記載その他の事情から郵便物の内容が推知できる」状態にあったと主張することが可能になります。但し、特定記録郵便は、どのような内容の郵便を差し出したか証明することはできません。そこで、内容証明郵便に「本通知書と同内容を記載した通知書を特定記録郵便でお送りしています。」と本文末尾に記載し、特定記録郵便には、「本通知書と同内容を記載した通知書を内容証明郵便(お問い合わせ番号:○○○-○○-○○○○○-○)でお送りしています。」と記載をしておけば、特定記録郵便の記載内容が内容証明郵便と同一であることを証拠化することができます。

相手方が受領しない可能性がある場合で、契約の解除通知等、確実に意思表示を到達させる必要がある場合には参考にしてみてください。