特許法74条1項に基づく特許権移転登録請求訴訟の要件事実

平成23年に特許法が改正されるまでの間、冒認出願されて発明者でない者に特許権を取得されてしまった場合、真の発明者としては、無効審判を請求する他なく、和解に持ち込んで特許権を取り戻すことを試みるしかありませんでした。無効とすれば誰でも特許権を利用できるようになるため、真の救済が果たされないという点で制度的問題を抱えていました。この点に関して最高裁(平成13年6月12日判決・民集55巻4号793頁)は、特殊事例において取戻請求を認めましたが、なお一般的には認められないとの見解もありました。このような経緯から、平成23年に特許法が改正され、新たに「真の発明者の冒認者に対する特許権移転登録請求」が認められました(特許法74条1項)。この請求の対象となる特許権は、平成24年4月1日以降の出願に基づく特許権に限られます。これを「発明者取戻権」と呼ぶ学者もいます。

真の発明者の冒認者に対する特許権移転登録請求の請求原因は、髙部真規子『実務詳解特許関係訴訟第2版』388頁・平成24年11月27日発行によれば、次のとおりとされています。

 

① 原告は、平成○年○月○日、別紙特許権目録記載の特許権に関わる発明をした。

② 被告は、本件特許権の登録名義人である。

③ よって、原告は、被告に対し、特許法74条1項に基づき本件特許権の移転登録手続を求める。

また、上記に代えて、

①-1 Aは、平成○年○月○日、別紙特許権目録記載の特許権に関わる発明をした。

①-2 原告は、平成○年○月○日、Aから上記発明に関わる特許を受ける権利を譲り受けた。

 

上記に加え、近時の裁判例では、当該特許発明は自己が単独又は共同で発明したもので、相手方が発明したものでないことを原告が主張立証する必要があると判示されています(大阪地裁平成29年11月9日判決裁判所HP掲載)。

 

「自己が発明をした」という要件や「相手方が発明したものでない」という要件は、何らかの具体的事実から一義的に導かれる要件ではなく、法的評価が必要ですので規範的要件に該当すると思われます。そうしますと、細分化すれば、「自己が発明をした」ことを基礎付ける評価根拠事実を原告側が主張立証する必要があり、これと両立する評価障害事実を被告側が主張立証することになります。「相手方が発明したものでない」ことに関しても同様です。

 

真の発明者の冒認者に対する特許権移転登録請求は、研究室や社内での発明の持ち逃げのケースが典型例ですが、そのほかにも特許を受ける権利の譲渡契約が無効となり冒認出願となるケースや、共同開発契約を締結していた企業の一方が単独で出願するケースという場面でも用いられることが想定されます。

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