誤振込への法的対応

誤振込をしてしまった場合、振込先口座の金融機関、支店、口座番号については把握できるものの振込先口座の名義人の漢字氏名や住所や連絡先が不明である場合が殆どです。銀行実務では、振込依頼人が口座を開設している仕向銀行に対して、振込先口座が開設されている被仕向銀行への組戻依頼を行い、振込先口座の名義人が組戻に応じる場合には、組戻手続により処理することになります。ところが、被仕向銀行が名義人と連絡をとることができない場合には組戻手続をとることができません。被仕向銀行は、原則として保有する個人情報を第三者に開示しませんので、誤振込をしてしまった振込人としては対応に窮することがあります。このような場合には、弁護士に相談して回収を依頼する必要があります。

 

 振込先口座の口座名義人の漢字氏名及び住所の調査

 

 誤振込をした者は、誤振込を受けた振込先口座の口座名義人に対し、民法703条の不当利得返還請求権を有します。そこで、振込先口座の口座名義人を相手方とすることになります。

弁護士は、弁護士法23条の2に基づく弁護士会照会の手法(これを「23条照会」と言います。)により、所属弁護士会を通じて官公庁や企業や事業者等に事実を問い合わせることができます。23条照会を受けた団体は、正当な理由がない限り、照会された事項について回答しなければならないと解されています(最高裁平成28年10月18日判決〔最高裁民事判例集70巻7号1725頁、判例時報2320号33頁、判タ1431号92頁〕)。そこで、弁護士に依頼して、被仕向銀行に対する23条照会の手法により振込先口座の口座名義人の漢字氏名、住所を照会することになります。弁護士は、職務上請求という手法により、相手方の住民票を取得することができますので、登録されている住所から現在の住所まで追跡することが可能です。このような手法を尽くした上で、口座名義人の住所を特定します。住所が特定できた場合には、交渉又は訴訟の方法により回収を試みることになります。

 

弁護士法上、23条照会に応じない場合の罰則等が定められている訳ではありませんので、金融機関が回答に応じないということもあり得ます。それゆえ、被仕向銀行が23条照会に応じない場合の対応を検討する必要があります。ここでは2つの手法が判例上、認められています。すなわち、①漢字氏名及び住所不明の者を被告として訴訟提起するという手法、②被仕向銀行を被告として訴訟提起するという手法が考えられます。

 

①漢字氏名及び住所不明の者を被告として訴訟提起するという手法

 

まず、口座名義人の漢字氏名や住所を不詳としまま訴訟提起し、公示送達の方法により送達し債務名義を取得することが考えられます。これを認めた判決として、長野地方裁判所松本支部平成16年12月9日判決(消費者法ニュース66号195頁)があります。

また、訴訟提起後に調査嘱託の方法により裁判所から被仕向銀行に対して照会をすることを予定していた場合に、漢字氏名や住所を不詳とした訴状を却下することが許されないとした決定もあります(名古屋高裁金沢支部平成16年12月28日決定〔判例集未搭載〕)。

 

②被仕向銀行を被告として訴訟提起するという手法

 

誤振込をした者は、振込先口座の名義人に対して不当利得返還請求権を有していますが、その氏名不詳者に対して直接債務名義を取得することが困難であり、当該氏名不詳者の財産と認められるものは、被仕向銀行に対する預金払戻請求権以外に見当たらないことになりますので、自己の不当利得返還請求権を被保全債権として、当該預金払戻請求権を民法423条に基づいて代位行使するということが考えられます。

振り込め詐欺の事案において、このような構成を認めた判例が存在します(東京地方裁判所平成17年3月30日判決〔判例時報1895号44頁〕、東京地方裁判所平成17年3月29日判決〔金融法務事情1760号40頁〕)。

 

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