会社分割と債権者保護手続

会社分割

会社分割とは、ある会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を他の会社に承継させることをいいます。このうち、吸収分割とは、株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割後他の会社に承継させることをいいます(会社法2条29号)。新設分割とは、一又は二以上の株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させることをいいます(会社法2条30号)。

 

債権者保護手続

吸収分割を実施するにあたっては、吸収分割契約を締結して(会社法757条、758条)、同吸収分割契約の定めに従って、吸収分割会社の権利義務を承継します(会社法759条1項)。

新設分割を実施するにあたっては、新設分割計画を作成し(会社法762条、763条)、同新設分割計画の定めに従って、設立会社が分割会社の権利義務を承継します(会社法764条1項)

ここでは、権利義務を承継する会社を「承継会社」と呼ぶことにします。

この際、債権者保護手続を経る必要があります。すなわち、分割会社は、官報に公告するとともに、分割後、吸収分割会社又は新設分割会社に対して債務の履行を請求することができない債権者(会社法789条1項2号、810条1項2号)に対し、一定期間内に異議を述べることができる旨を含めて一定の事項の催告をしなければなりません(会社法789条2項各号、810条2項各号)。この「一定期間」は1か月を下回ることができません。債権者が異議を述べなかった場合、当該債権者は分割を承認したものとみなされます(会社法789条4項、810条4項)。

債権者が異議を述べた場合、吸収分割会社又は新設分割会社は、当該債権者に対して弁済するか、相当の担保を提供するか、弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託しなければなりません(会社法789条5項、810条5項)。

債権者が異議を述べることができない場面

⑴ 併存的債務引受がなされている場合や債務が移転しない場合、債権者は異議を述べることができず、債権者保護手続により救済されません。

このような制度設計から、一部の優良事業のみを承継会社に承継させて、他の債権者への支払いを免れるために不採算事業や債務を吸収分割会社又は新設分割会社に残すことにより、債権者に異議を述べる機会を与えないという手法がとられることがあります。このような会社分割は、「濫用的会社分割」と呼ばれます。この場合、債権者は吸収分割について異議を述べる機会がないばかりか、事後的に会社分割の効力を争うこともできません(会社法828条1項9号10号、2項9号10号)。

平成26年に会社法が改正されるまで、詐害行為取消や法人格否認等により承継会社に対する責任追及ができるようにするための議論がなされていました。具体的には、新設分割の場合に、最高裁平成24年10月12日判決は、「新設分割設立会社にその債権にかかる債務が承継されず、新設分割について異議を述べることもできない新設分割株式会社の債権者は、民法424条の規定により詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができる」との判断を示しています。また、破産法上の否認権行使の対象となります。この他、下級審判例では、法人格否認の法理により新設会社に対して履行請求できるとしたものもあります。商号を続用しているならば会社法22条1項類推適用による責任追及もあり得るでしょう。

⑵ 平成26年に会社法が改正され、会社法759条4項及び766条4項において「残存債権者を害することを知って」会社分割を実施した場合には、残存債権者は、そのような会社分割がなされたことを知ったときから2年以内に、承継会社に対して、「承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。」と定められました。但し、吸収分割の場合、承継会社が、「残存債権者を害すべき事実」について知らなかったことを証明した場合には、かかる請求を免れることになります(会社法759条4項ただし書き)。新設分割の場合、残存債権者を害すべき事実を知らなかったとしても、請求を免れることはできません。

 

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