事業移転手法の比較
事業移転の手法
事業を移転するためには、①吸収分割(会社法2条29号)という手法と、②事業譲渡の手法を用いることが考えられます。会社の事業を他の会社に移転するという点で同様の経済的効果を持つものですが、要件が異なり、その簡便さや迅速さを重視する場合、②事業譲渡の手法を用いることが多いように思います。他方で、事業を譲り受ける会社において、すぐに金銭を準備することが困難な場合、承継会社の株式を対価として用いることができる①会社分割の手法をとることも考えられます。その要件と効果をニーズと比較して適当な手法を選択する必要があります。
吸収分割と事業譲渡の比較
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①吸収分割 |
②事業譲渡 |
契約書 |
吸収分割契約書 |
事業譲渡契約書 |
譲渡会社等の承認手続 |
株主総会特別決議 |
株主総会特別決議 |
譲受会社等の承認手続 |
株主総会特別決議 【例外・簡易分割】承継対価の帳簿価格が承継会社の純資産20%を超えないとき不要 |
株主総会特別決議 【例外・簡易譲受】譲受対価の帳簿価格が譲受会社の純資産20%を超えないとき不要 |
反対株主株式買取請求 |
有り |
有り |
対価の内容 |
承継会社の株式、金銭 |
原則として金銭 |
譲渡会社等の 債権者異議手続 |
必要 【例外・併存的債務引受】 |
不要 |
譲受会社等の 債権者異議手続 |
必要 |
不要 |
個別の債権者の同意 |
不要 |
必要 【例外・併存的債務引受】 |
労働契約承継手続 |
必要 |
不要 |
個別の労働者の同意 |
不要 |
必要 |
消費税 |
課税取引に該当せず |
課税資産があれば課税 |
不動産流通税 |
軽減措置あり |
軽減措置なし |
※ 事業を移転する会社を、吸収分割においては分割会社、事業譲渡においては譲渡会社といい、併せて譲渡会社等といいます。
※ 事業の移転を受ける会社を、吸収分割においては承継会社、事業譲渡においては譲受会社といい、併せて譲受会社等といいます。
吸収分割と事業譲渡の相違点
事業譲渡は、債権者異議手続を経る必要がないため比較的短期間で実行可能であるという点で機動性に優れますが、対価として金銭を用意する必要があるという点、労働者や債権者から個別の同意を得る必要があるという点、税制面での優遇を受けることができないという点で劣ります。
他方で、会社分割は、税制面での優遇がある点、労働契約や債権債務関係の移転が簡便である点で安定性があり、また対価として株式を用いることもできるという点で優れますが、債権者異議手続等の一定の期間を要するという点で機動性に劣ります。
債権者異議手続の要否
吸収分割においては、債権者異議手続を経なければなりません。分割会社と承継会社とが、いずれの会社も債権者に対して債務を弁済するという場合(これを「併存的債務引受」と言います。)には、分割会社での債権者異議手続を省略することができます。しかし、この場合であっても、承継会社での債権者異議手続を省略することはできません。
この債権者異議手続においては、吸収分割の内容と、一定の期間内(1か月以上)に異議を述べることができる旨を官報に公告し、かつ知れている債権者に各別に催告しなくてはならなりません。但し、公告を官報のほか定款所定の日刊新聞紙又は電子公告により行なった場合は各別の催告を省略できます。この期間内に債権者から異議を述べられたときは、原則として会社は、弁済、担保提供等をしなければなりません。この手続を完了しなければ効力を生じないことから、会社分割が完了するまでに時間を要します。
他方、事業譲渡においては、債権者異議手続を経る必要がありませんので、比較的迅速に実現可能です。但し、譲受会社が債権債務関係の移転を受けるためには、個別に債権者の同意を得る必要があり、債権者の数が多いと債権債務関係移転のために支障が生じるおそれがあります。もっとも、この場合におきましても、譲渡会社と譲受会社が併存的債務引受をする場合には、個別に同意を得る必要がありません。
労働者保護手続の要否
会社分割において、分割会社の労働契約を承継会社に移転するためには、労働契約承継法による手続を経る必要があります。分割会社にて労働者と協議を行ない、吸収分割を承認する株主総会の日の2週間前の日の前日までに、分割会社が雇用する労働者に一定の法定事項を書面により通知します。事前通知された日から、少なくとも13日間を労働者の異議申出期間としなければならず、この期間に申出のあった労働契約は承継会社に承継されません。
他方、事業譲渡においては、労働契約承継法の適用がなく、個別に労働者の同意を得る必要があります。
税制面の比較
会社分割の場合、資産の譲渡に該当しないことから消費税の課税対象となりません。また不動産を引き継いだ場合には、登録免許税を納める必要がありますが、租税特別措置法により軽減されており、不動産取得税がかかりません。
他方、事業譲渡の場合、資産の譲渡に該当することから、課税資産(土地以外の有形固定資産、無形固定資産、営業権等)については消費税の課税対象となります。また不動産を引き継いだ場合には、所定の登録免許税がかかることに加え、不動産取得税がかかります。