示談での三者間相殺合意の定め方

民法が規定する相殺(民法505条)では、対立する債権を有する2当事者間の相殺を予定しており3人以上の当事者間での相殺を予定していませんが、契約自由の原則からして、3人以上の当事者間で対立関係にない債権同士を相殺を合意することも可能であると理解されています。

 


契約書や和解条項にて三者間相殺合意する場合の例文を記した文献は多くありませんが、裁判実務では、単に「相殺することを合意する」と記載することや「差引計算することを合意する」と記載することになります。

 

例えば、損害保険会社が関与する場合の交通事故において、Xが所有し運転する車両とYが所有し運転する車両との交通事故で、双方過失有り、Xのみ人損が発生したという事案で、損害保険会社のZがYの車両の修理費を払って求償債権を取得している場合には、各債権額を確認した上で相殺合意し、支払い方法を定めることになります。
具体的には、次のような和解条項を定めることが考えられます。

 

第1項 Yは、Xに対し、本件交通事故によるXの人身障害による損害賠償債務として金○円の支払い義務があることを認める。
第2項 Xは、Zに対し、本件交通事故によるYの車両損壊の損害賠償債務に関する保険代位による求償金債務として金○円の支払義務があることを認める。
第3項 XとY及びZは、第1項の債務と前項の債務とを、対当額で相殺することを合意する。
第4項 Yは、Xに対し、第1項の債務及び前項による相殺後の残金○円を、平成○年○月○日限り、○○銀行○○支店「○○」名義の○○預金口座(口座番号○○)に振り込む方法により支払う。ただし、振込手数料はYの負担とする。
第5項 Yが前項の金員の支払いを怠ったときは、Yは、Xに対し、前項の金員から既払金を控除した残額及びこれに対する前項の支払期限の翌日から支払い済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払う。
第6項 XとY及びZは、XとY及びZとの間には、本件交通事故に関し、本和解条項に定めるもののほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する。