給与差押えと先日付振込

ある日突然、会社に給与債権の差押命令書が届き、慣れない対応に苦慮することがあります。基本的な計算方法等については、差押命令書に同封されている紙に記載されていますが、既に給与の先日付振込手続を終えているような場合には、早急に対応を検討しなければなりません。

 

 

差押えは、差押命令が第三債務者に送達された時点で効力が生じます(民事執行法145条4項)。例えば、毎月25日支給である場合には、同日よりも前に差押命令が送達されていれば、当月支給の給与について差押えの効力が生じることとなります。

第三債務者が、差押命令を無視して債務者である従業員に給与を支払った場合、その支払いについて給与差押えを行なった債権者に対抗することができず、更に債権者に対しても弁済しなければなりません(民法481条1項)。

問題となるのは、給与を先日付振込の手続を完了している場合です。この場合であっても、振込依頼を撤回することは手続上可能であるため、原則としては当該先日付振込手続によっても債権者に弁済しなければならない義務を負います。

しかし、先日付振込依頼の撤回は、一般的に銀行窓口で組戻請求書を提出する等の手続をしなければならず、振込日の前日に差押命令が送達されていても対応することができないこともあり得るため問題となります。このような場合に関し、最高裁平成18年7月20日判決は、「送達を受けた時点において、その第三債務者に人的又は時間的余裕がなく、振込依頼を撤回することが著しく困難であるなどの特段の事情」がある場合には、例外的に債務者への弁済を債権者に対抗できると判示しました。

 

では、ここでいう特段の事情はどの程度の場面をいうのでしょうか。

前述の最高裁判例の差戻審は、12月27日午前11時に仮差押えの特別送達を受領し、営業終了時刻が年末であったため午後0時15分、組戻しの締切りが午後3時までであったという事案において、「振込依頼の撤回の事務を行なうのに、人的な面で著しく余裕がなかったとは認めがたいし、本件仮差押えに対応することは重要な案件(公的な義務であるのみならず、第三債務者として場合により二重払の危険にさらされる事柄)であって、緊急事態であるとして対応していれば措置の決定までに午後0時20分ないし午後1時ころまでの時間を要したとは認められず、本件振込依頼の撤回に係る金額等の検討にもそれほど時間を要するものではない」と判示し、極めて迅速な対応を要求しています。

 

第三債務者としては、差押命令が送達された場合には、二重払の危険があることを念頭に、直ちに内容を確認し早急に検討する必要があるといえます。手を尽くしても組戻しができない場合には、対応を記録に残したうえで、債権者にその旨を通知すべきでしょう。

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